コレクターズガイド、市場動向

2011年秋のニューヨーク・アート写真オークション結果
フィリップス(Phillips de Pury & Company)が総売り上げトップを獲得!

2011/12/30

 

さて、今秋のアート写真を取り巻く環境はどのようになっていたのだろうか。
夏には発行限度枠のごたごたから米国債が格下げ、秋口からギリシャ危機が顕在化。世界的に国家の債務問題が大きくクローズアップされた。元々はリーマンショック後の政府による財政出動のつけがここにきて様々な形で顕在化したということだろう。これは、将来的に景気が後退してももはや国が財政政策で需要を創出する余裕がないことを意味している。NYダウ平均株価は春先12,000ドル台で推移していたのが、秋口には格下げとギリシャのデフォルト懸念から一時10,400ドル台に下落していた。市場センチメントは決して良くない状況だったと思う。
しかし、主要3社の総売り上げは、約1749万ドルで春よりも若干下がった程度だった。経済の混乱の直接の影響は数字からは感じられなかった。
今秋のニュースは、ついにフィリップス(Phillips de Pury & Company)が売り上げ約692万ドルを記録し、老舗のササビース、クリスティーズを抜いてトップを獲得したこと。地道な営業努力の継続がついに実を結んだ。
その後は経済の先行きに透明感が増す中、11月の現代アート・オークションではアンドレアス・グルスキー作品が$4,338,500.(約3億4708万円)で落札され写真作品のオークション最高額を更新している。
クリスティーズ・パリで11月に開催された、アンリ・カルチェ=ブレッソン、アーヴィング・ペンの単独セールを含むオークションも良好な結果だった。特にカルチェ=ブレッソンの決定的瞬間の代表作である"Gare St. Lazare,1932"の1946年プリント作品が作家オークション落札最高額の433,000ユーロ(約4700万円)で落札され話題になった。

しかし、決して楽観は許されないだろう。優れた逸品ばかりを集めた大手とは異なり、中級から普通レベルの作品中心の中堅業者による写真オークションの落札率は低迷しているのだ。2008年のリーマン・ショックでは、直後の秋のオークションは直近の最大の売上高を誇っていた。しかし、翌年春のオークションでは売り上げ総額が激減した。いまのところ、希少な資産価値の高い作品への需要に衰えは感じられない。また、2000ドル程度までの作品はギャラリー店頭やフォトフェアでも動きは悪くないという。コレクションというよりもインテリア感覚で買う人も多いらしい。来年にかけても、市場の二極化という大きなトレンドに変化はないだろう。

ササビースは10月5日にオークションを行った。
総売り上げは約475万ドル(約3.8億円)。落札率は約71.5%だった。今春より売り上げは約15%程度落ち込み、落札率も悪化した。傾向は今春から変わらず、本当に古くて希少で重要なクラシック作品に人気が集中していた。
最高額落札は、季刊雑誌カメラワークの1903年〜1917年までの完全セット。落札予想価格上限を大きく超える398,500ドル(約3188万円)で落札されている。これは完全セットの最高額。実は本作は1981年にオークションで落札されたもの。当時は何と、23,000ドルだったとのことだ。
2番目の高額落札は、アンセル・アダムスの代表作、"Moonrize, Hernandez, New Mexico,1941 "の76.5X101.6cmの巨大作品。制作は60年代から70年前後までの間、このサイズで現存するのは約12点、またサイン入りは非常に珍しいことから高い落札予想価格となった。落札価格は362,500ドル(約2900万円)だった。
続くのは、ピエール・デュブレイユ(Pierre Dubreuil)の"The First Round、1932"。多くの作品が戦争で焼失しており、残っているプリント数が非常に少ない作家。本作はわずか2作品しか現存が確認されていないとのこと。落札予想価格上限を超える314,500ドル(約2516万円)で落札。これは作家のオークション落札最高金額になる。
4番目となったのはダイアン・アーバスの"Viva at home, 1968"。アンディー・ウォーホールの映画に登場する女優ヴィヴァの素顔を撮影した有名作。現存されているのが僅か3枚と言われている貴重な作品だ。ほぼ落札予想価格上限の194,500ドル(約1556万円)で落札されている。
現代アート系は、ベッヒャー夫妻の作品が不落札になるなど、落札予想価格が高めのものは元気がなかった。その中でも、ピーター・ベアード人気は変わらず、約127 X 218cmの巨大サイズの1点もの作品、 "Maureen Gallagher and a Late-Night Feeder, 2:00AM, 1987"が158,500ドル(約1268万円)で落札されている。

クリスティーズは10月6日〜7日にかけて複数委託者のオークションと、 "The American Landscape:Black and White Photographs from the Collection of Bruce and Nancy Berman"を開催。
6日開催の複数委託者のオークションの総売り上げは、4,811,625ドル(約3.85億円)、落札率は約73%だった。
最高額はアンセル・アダムスの巨大な5枚組のシルバー・プリント、"Clearing Storm, Sonoma County Hills, 1951"。
落札予想価格下限の242,500ドル(約1940万円)で落札されている。
2番目の高額落札もアンセル・アダムス。60年代にプリントされた貴重な5枚セットの"Surf Sequence,A-E, 1940"が、
落札予想価格上限を超える170,500ドル(約1364万円)で落札されている。
ブラジル出身のヴィック・ムニーズ (Vik Munik)の シルバー・プリント10枚セットの"The Best of Life, 1989-1995"も同額で第2位と健闘。 落札予想価格上限を超える170,500ドル(約1364万円)で落札されている。
続くのはまたアンセル・アダムスの約60X70cmの大判作品、 "Aspens,Northern New Mexico,1958"。これも現存する5点のうちの貴重な1点。ほぼ落札予想価格下限の158,500ドル(約1268万円)で落札されている。
ピーター・ベアードはここでも人気が高く、約177 X 228cmの巨大作品、"Bull Eland Passing Elephants Digging Water, Near Kathamula Tsavo, North,1965"が158,500ドル(約1268万円)で落札されている。

翌日には"The American Landscape"が行われた。オークションの総売り上げは、1,001,937ドル(約8015万円)。落札率は約80%だった。
高額落札の多くはドロシア・ラングで、最高額も彼女の"The Family Face,1933"。落札予想価格上限を大きく超える40,000ドル(約320万円)で落札されている。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)は10月4日に開催。
複数委託者のオークションと、プライベート・コレクションからの"The Arc of Photography"が行われた。総売り上げは約約692万ドル(約5.53億円)、落札率は複数委託者オークションが82.5%、"The Arc of Photography"が約82%だった。春よりは多少低下しているが良好な数字だ。上記のように、同社は秋のニューヨーク写真オークションで売上高でトップとなった。
2つのオークションでの最高額は、カタログ表紙を飾るリチャード・アヴェドンの4枚のダイランスファーによる1967年作のビートルズ・ポートフォリオ。1968年1月号の雑誌LOOKマガジンの表紙になった有名作だ。予想落札価格は、35〜45万ドル(2800万円〜3600万円)のところ、722,500ドル(約5780万円)で落札された。これはアヴェドンの史上第2位の高額落札。
2位は19世紀の、NadarとAdrien Tournachonの"Pierrot with Fruit, 1854-1855"で、542,500ドル(約4320万円)で落札された。これはもちろん作家デュオのオークション最高額。
3位はマン・レイの、"Untitled(Self-Portrait of Man Ray, 1933"で、398,500ドル(約3188万円)という予想落札価格の約3倍で落札された。
4位はアーヴィング・ペンの代表作の1枚、"Black and White Vogue Cover (Jean Patchett),1950"のプラチナプリントで374,500ドル(約2996万円)だった。
第5位は、写真界の重鎮アルフレッド・スティーグリッツの"Georgia O’Keeffe:A Portrait, 1935"で146,500ドル(約1172万円)。
6位にはやっと現代アート系が入った。ベッヒャー夫妻の "Cooling Towers, Ruhr District,1983"が140,500ドル(約1124万円)だった。

*落札価格は手数料込みの価格。円価は1ドル80円で換算。

Art Photo Site 福川芳郎


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