ニューヨークのアート写真オークションの主要3社の売り上げ合計は、リーマン・ショック直後の2008年秋に直近の売上ピークの約8250万ドルを記録している。その後、2009年春に売り上げが激減、2010年春にやっと2006年頃のレベルである約1700万ドル(@80、約13.6憶円)に戻している。それ以降は1600万ドルから1900万ドルの範囲内の動きが続いており、今春オークション売り上げ合計もほぼそのレンジ内の約1676万ドル(@80、約13.4憶円)だった。
内訳は、クリスティーズが売り上げを伸ばし、フィリップス(Phillips de Pury & Company)はほぼ横ばい、ササビーズが売り上げを落としている。
オークションに心理的な影響を与えるニューヨーク・ダウの株価。今回のアート写真オークションは4月第1週目に行われた。当時の株価は13,000ドル超えレベルで市場センチメントは悪くはなかったと思う。その後は、欧州財務危機問題、米国の景気減速懸念などで株価は下落している。秋のオークションにはやや不安を感じる経済動向だ。
アート市場でのトレンドは、資産価値による、売れるもの、売れないものへの市場2極化は変わらない。その傾向が顕著なのが高額作品が多い現代アート市場。最近は、売り上げの中で超1級品が入札されるイーブニング・セールの割合が大きくなっている。オークションはマスター・ピースのみを扱う高級品市場へと変貌しつつある。アート写真も同様の傾向がみられる。今春の売り上げトップに躍り出たクリスティーズの場合、全体の約1/3もの作品が落札予想価格の上限を超えている。美術館で個展を開催している話題性のある写真家の作品や、質の高い希少作品への需要は強いのだ。ここ数年続いているのが、質の高い作品の出品が多い大手オークションでの不落札率が低いことだ。一方で、中級から普通レベルの作品の出品が多いスワン・ギャラリーやブルームズベリーのオークションは不落札率が高いのだ。ちなみに、今回は質の高い作品が少ないと指摘されていた大手ササビーズでも約31%の高い不落札率だった。
ササビースは4月3日にオークションを行った。
総売り上げは昨年秋の約475万ドルから、約378万ドル(約3.02億円)に約20%減少。ロット当たりの落札率も約71.5%から69%に悪化した。今回、高額落札の上位はアンセル・アダムス作品が占めた。また高額落札10作品のうちの3点がアダムスだった。その他、マーガレット・バーク・ホワイト、エドワード・スタイケンなどの高額落札もあり、明らかにクラシック作品が復権している印象だ。
第1位はアンセル・アダムスの約84X97cmの大判サイズの、"Mount McKinley and Wonder lake,
Danali national Park, 1947" が266,500ドル(約2132万円)で落札。
2位は四作品がともに122,500ドル(約980万円)で落札。アンセル・アダムスの約101X72cmのサイズの、 "White
House Ruin, 1942"、ロバート・メイプルソープの美しいプラチナ・プリント"Calla Lily,1984"、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの19世紀の4.1X4.1cmサイズの作品"View
through Latticed Window、circa 1839-40"、そしてレイ K. メッカーの"Composites:Tall
Grove of Nudes"だ。このメッカー作品は落札予想価格の約2倍というオークション最高落札価格だった。
ダイアン・アーバスの落札予想価格40万〜60万ドル(約3200万〜4800万円)だった"A Box of Ten Photographs"は不落札だったが、終了後に買い手がついたと発表されている。
フィリップス(Phillips de Pury & Company)は4月4日に開催。
総売り上げは昨秋の約692万ドルよりやや減少して約610万ドル(約4.88億円)、落札率はほぼ前回並みの82%だった。
フィリップスでは、コンテンポラリーからクラシックまでの幅広い分野の写真家の作品がオークション最高価格で落札された。
第1位はシンディー・シャーマンの"Untitled Film Still #49,1979"が626,500ドル(約5012万円)という落札予想価格の2倍で落札。ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催中の回顧展や現代アート・オークションでの度重なる高額落札が影響しているのだろう。
これが今シーズン・ニューヨークでの最高額だった。
第2位は、ルイジアナ美術館で回顧展開催中のアンドレアス・グルスキー。"Taipei, 1999"が302,500ドル(約2420万円)で落札されている。
第3位はなんとサリー・マン。"Candy Cigarette, 1989"が266,500ドル(約2132万円)。もちろん作家のオークション落札最高値だ。
また2011〜2012年にかけて全米の美術館で回顧展開催中のフランチェスカ・ウッドマンも注目された。"Untitled,
Room, 1977"が予想を大きく超えて競り上がり、170,500ドル(約1364万円)という作家のオークション落札最高値をつけている。ファッションでは、アーヴィング・ペンの"Woman
with Roses on Her Arm,1950"が第4位の230,500ドル(約1844万円)、メルヴィン・ソコルスキーの12作品のポートフォリオ"Paris,1963"が92,500ドル(約740万円)で落札されている。
クリスティーズは4月5日に開催。
総売り上げは約688万ドル(約5.5億円)で今春の売り上げトップとなった。出品作品数が一番多かったことも影響しているだろう。落札率は83%だった。約1/3作品が
落札予想価格の上限を超えており、非常に順調な結果だった。
最初の71点はヒューストン美術館による新規作品購入資金調達のために開催。欧米の美術館は重複作品を市場で売却することがある。これは一般コレクターにとって最高の来歴作品だ。予想通り、出品71点のうち67点が落札された。
第1位は写真集"アメリカ人"の表紙にもなっているロバート・フランクの代表作"Trolley, New
Orleans, 1955"。落札価格上限の15万ドル(約1200万円)をはるかに超える434,500ドル(約3476万円)で落札。これはフランク作品の歴代第3位の高額落札になる。
また、アーヴィング・ペンの代表作"Black and White Vogue Cover, 1950"も同額で落札。これは1968年にプリントされた非常に貴重なプラチナ・プリント。ちなみに落札予想価格上限は30万ドル(約2400万円)だった。
第3位はウィリアム・エグルストンのダイトランスファー作品"Untitled, 1973"が242,500ドル(約1940万円)で落札。これは落札予想価格上限は9万ドル(約720万円)の約3倍近い。明らかに3月の単独オークションの成功が影響していると思われる。ちなみに今回はその他6点のエグルストン作品が出品を取りやめている。
第4位はオークション・カタログの表紙を飾る、ドイツ人アーティストのクリスチャン・シャド(Christian Schad)によるフォトグラム作品
"Untitled, Schadographie Nr. 17, 1919"。リザーブに近い218,500ドル(約1748万円)で落札された。
ロバート・フランクの黒人女性が白人の赤ん坊を抱いている有名作"Charleston, South Carolina, 1955"も値が競り上がった。落札予想価格は3万〜5万ドル(約240万〜400万円)のところ、なんと182,500ドル(約1460万円)で落札。
*落札価格は手数料込みの価格。円価は1ドル80円で換算。
Art Photo Site 福川芳郎