2023-1-20

  

アンセル・アダムス

ADAMS, Ansel (1902-1984)

アダムスの劇的な風景写真は現代アメリカ人写真家のイメージで一番有名です。彼の自然への強い興味は彼が14歳のとき初めてヨセミテを訪問したときから始ります。彼は写真への興味と同時に、コンサート・ピアニストとしてのキャリアも築いてきました。しかし、1930年までに写真に人生をかけるようになります。
1932年にアートとしてのストレート写真を推進する有名な“グループf/64”の創設に参加。 1933年にニューヨークでスティーグリッツに出会い、1936年に個展を開催する機会を与えられます。ニューヨーク近代美術館などの写真部門設立にも参加、1966年にはカーメルのフレンズ・オブ・フォトグラフィー設立を援助しています。
彼の高い写真術は“ゾーンシステム”という手法を開発したことで有名です。中間トーンを最もきれいに 再現するこの技術から生み出されたオリジナルプリントは非常に高いクオリティーを持っています。しかし彼は決してテクニック優先でなく、作品のオリジナリティーを第一に追求した作家でした。 高いプリントのクオリティーと芸術性を兼ね備わった作品こそが歴史に残ることを、彼のオリジナルプリントが示しています。

◆オリジナルプリントとアンセル・アダムス◆
1970~80年代に欧米の美術館が写真のコレクションを開始したことをきっかけに、オリジナルプリント売買が市場として確立されます。これは流通する写真数の増加と質の良い作品が市場に評価され、価格が上昇し、先高観から個人コレクターが新たに参加したことによります。写真をコレクションの対象として市場に認知させるのに貢献した作家の一人がアンセル・アダムスなのです。
著名な写真ディーラーであったハリー・ラン氏(Harry H Lunn Jr.)によると1971年1月に彼のギャラリーで行ったアンセル・アダムスの写真展では作品1枚が150ドルで売られ、約1万ドルの売り上げがあったそうです。1975年にプリント中止宣言をした時の最終注文数は約3,000枚、当時ラン氏は1,000枚注文し、ディーラー価格の購入平均価格は約300ドルだったそう です。オリジナルプリント市場がその後急成長する兆候がもうこの頃からあったのです。
その後1979年には ニューヨーク近代美術館で回顧展が開催され、アンセル・アダムスのオリジナルプリントの売り上げ、値段 が急上昇していくことに繋がっていきます。何と同年の米国でのオリジナルプリントの売り上げの50%が彼の作品でした。

21世紀以降もアンセル・アダムス作品の人気は全く衰えていません。特に市場を席巻する現代アート分野のコレクターが好む、来歴の良い、サイズの大きな作品はアート性の再評価が進行し、オークションでの高額落札額が続いています。いまやアナログ時代に「ゾーンシステム」などの技法を駆使して、銀塩写真の表現の可能性拡大に挑戦してきた先駆者的アーティストだと考えられているのです。
ちなみにアンセル・アダムス作品のオークション作家最高額は、ササビーズ・ニューヨークで2020年12月に行われた第1回デビッド・H・アリントン・コレクション・セールに出品された、 "The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942"。60年代にプリントされた、大判約98X131cmサイズの銀塩作品で、98.8万ドルで落札されています。
オークションでの2番目の高額落札は、20世紀写真を代表する名作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941"です。2021年10月6日にクリスティーズ複数委託者による"Photographs"に出品された、60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われており、落札予想価格50万~70万ドルの上限を超える93万ドルで落札されています。いまや、20世紀写真でヴィンテージプリントの価値よりも、人気作の大判作品であることのほうが重要視されているのです。

この30年たらずでファインアート写真の価値基準は大きく変化してきました。いまや現代アート市場に飲み込まれた感もあるですが、その過程でアンセル・アダムスのオリジナルプリントは、常に市場をリードしてきたのです。