アーヴィング・ペンは1917年米国ニュージャージー生まれです。1930年代後半フィラデルフィア美術大学でハーパース・バザーのアートディレクターとして有名なアレクセイ・ブロドビッチに学びました。
ハーパース・バザーにイラストが採用され、その原稿料でローライフレックスカメラを購入し写真撮影を開始しました。その後1940年からサックス・フィフス・アベニューのグラフィック・アーティストとしてブロドビッチと共に働きました。しかしペンの本当の興味は絵画とドローイングで、画家を目指し1942年にはメキシコに渡っています。
帰国後の1943年にアレクサンダー・リーバーマンに請われてヴォーグで働くようになります。表紙デザインのアイデアを提案しますが、当時の有名写真家に相手にされず、リーバーマンの提案でペン自身が撮影するようになりました。偉大な写真家の経歴はこの様に始まりました。リーバーマンはペンのメキシコ滞在時や米国内旅行のコンタクト写真を見ていて、すでにペンの才能を見抜いていたのです。
その後1947年にトップ・モデルのリサ・フォンサグリーブスと結婚。特に1950年のパリ・コレクションの写真はペンのファッション写真の頂点として高く評価されています。彼は単純な背景と北側からの間接光によるニュートラルな明るさを好みました。彼のファッションそしてポートレートも自然光を強調するために人工光線を使うテクニックを取り入れました。当時としては斬新で、後のファッション写真に影響を与えました。
ペンが受け入れられたのは時代的な背景があります。大戦が終了して世の中の価値観が変化しました。ファッション誌の読者も裕福な階級の婦人から若い働く女性になってきたのです。しかしファッション写真はいまだヨーロッパ的な戦前の保守的イメージから脱する事ができていなかったのです。ペンそしてハーパース・バザーのアベドンの作り出すイメージは戦後の新しいアメリカ女性の理想のスタイルが提供されていたのです。
ファッション以外にもペルー、ネパール、モロッコなど世界中を旅行して各地の個性的な民族の写真を仮設スタジオ内の単純な背景で撮影しています。民族衣装や部族の特殊な化粧にファッション性を見出した写真はヴォーグ誌でも紹介され、新しいスタイルのファッション写真として高い評価を得ました。
ペンはその後アート志向を強め、ファッションやポートレートと同じアプローチで煙草の吸い殻や、ゴミを巨大なプラチナプリントで制作しています。普段私たち全く関心を示さない何気ない題材に静謐な美と質感を作り出すペンのアプローチは現代美術に通じるものがあります。
有名な"Cigarette No.37 NY 1972"をオークションの下見会で近くから目にしたことがあります。写真集の大きさでは決してわからないそのプリントの美しさには感動しました。
一時期、婦人を亡くして、ペン自身気分が落ち込んでるという話をきいたことがあります。随分周りが心配した時もあったようです。展示解説資料によると高齢にかかわらず現在も元気に活躍しているそうです、たいへん喜ばしいことだと思います。ますますのご活躍を期待します。
◆アーヴィング・ペンのポートレート◆
ペンはロンドン、パリ、ニューヨークで職人や労働者を、20世紀初頭のドイツの写真家アウグスト・ザンダーに影響を受けたかのようなスタイルで撮影しています。また世界各地を旅して同じスタイルで各地のユニークな衣装を纏った部族も撮っています。ザンダーとペンの写真の違いはその背景です。ザンダーは労働者が仕事をしている場所で撮影しています。一方、ペンはすべて簡素な背景幕の前で仕事を行っています。ザンダーの意図は当時のモデルの労働者の社会的な存在を示す事であったことは明らかです。しかしペンは背景を簡略することで衣装そのものを際立たせようとしたと思われるのです。ペンにとってその人物の社会的存在はまったく関心ないのです。衣装があって彼らが初めて存在するのです。つまりペンはファッション写真のアプローチで色々な格好をした労働者や民族を撮影したのです。
一方、ペンは欧米の膨大な数の著名人の写真を撮影しています。これらは無名の労働者のポートレートと異なり有名人自身の顔が中心になっています。つまりこの場合は個人の顔自体に知名度があることから、ペンは彼らがどんな洋服を着ていてもまったく関心がないのです。ファッションが個人を特徴づけるメディアと理解すれば有名人の顔自身が既に特徴を持っていて、着るもので個性を出す必要は稀薄であるという事なのでしょうか。そのように解釈すればペンの有名人のポートレート写真も彼の全体の写真の中ではれっきとしたファッション写真になるのです。
アーヴィング・ペンの偉大さはファッション写真を洋服を撮影するメディアから、さらに社会、文化をも解釈できるものにしたことではないでしょうか。
◆ペンのオリジナルプリント◆
アーヴィング・ペンの作品は題材によりだいたい以下の様に分類されます。 プリントのサイズ、種類がシルバープリント、プラチムプリント、ダイトランスファーかによって異なります。
オークションでの値段の目安は大体以下の通りです。
- ファッション
イメージにより$7,000.〜(@125 \875,000.〜)。有名作品は非常に高価。
- ヌード
$5,000.〜(@125 \625,000.〜)
- 有名人のポートレート(ピカソ、フランシス・ベーコン、コレットなど)
ポートレートは被写体の人気度により価格差があります、 $4,000.〜(@125 \500,000.〜)
ピカソは$15,000.〜(@125 \1,875,000.〜)
- 労働者や職人のポートレート
$7,000.〜(@125 \875,000.〜)
- ドキュメンタリー・ポートレート(世界中の部族、民族、ヘルス・エンジェルの写真など)
ヘルス・エンジェルは$10,000.〜(@125 \1,250,000.〜)
部族のイメージは全般的に高価、有名なペルーの
"Cuzco Children, Peru, Christmas. 1948" 11 X 10.25 インチ、ヴィンテージ シルバープリント$16,100.〜(@125
\2,012,500.〜)クリスティーズNY、98年10月。
- スティル・ライフ(静物)
$7,000.〜(@125 \875,000.〜)
- 花
ダイトランスファーによるカラープリント、花によって人気度が異なる。
$10,000.〜(@125 \1,250,000.〜)
- 煙草の吸い殻,ゴミの拡大写真
"Cigarette No.37 NY 1972" 59.1 X 43.9cm のサイズのプラチナプリントで $10,000.〜(@125
\1,250,000.〜)