2023-1-20

  

フィリップ=ロルカ・ディコルシア

DiCorcia, Philip-Lorca (1951-)

現代アメリカ写真を代表する写真家の一人、フィリップ=ロルカ・ディコルシアはドキュメンタリーかつフィクションという新たなストリート写真で 写真界に大きな影響を与えています。彼はモデルのポーズからライティングまで、撮影に関する全ての要素を厳密に計算した上で、映画やファッション写真のように作品制作することで知られており、その手法はシンディー・シャーマンやナン・ゴ-ルディンとも比較されます。 現代アメリカ人家族の中に潜む孤独が主要な作品のモチーフになっています。

ディコルシアは1951年コネチカットのハートフォード生まれです。1970年代のハートフォード大学時代から写真に興味を持ちます。その後ボストンの美術学校とエール大学で学び、1979年には同大学の写真の美術学位で修士を取っています。 ウォーカー・エバンス、ゲイリー・ウィノグラント、ダイアン・アーバスなどのドキュメンタリー作家と コンセプチュアル・アートの影響を受けたと言われています。 一時期、映画関係の仕事を志した時期もありましたが、ニューヨークで写真家のアシスタントとして広告における写真技術を学んでいます。1984年ごろまでにはエスクアイアー、フォーチュンやコンデ・ナスト社の仕事を手がけ、フリー写真家として活躍するようになります。
1980年代には彼の家族とその生活空間を、映画セットのようにして利用するようになります。人の配置や家具や小物の位置も事前に決め、複雑なライティンングを駆使した撮影を行なうようになります。この手法で撮影された家庭の光景は、不思議な雰囲気を持ったストーリ性を感じさせる映像となりました。日常生活を映画シーンのように転回させる独創的な写真スタイルを作り上げます。
1990年から2年間はNEA(The National Endocements for the Arts)の奨学金を得て、西海岸のサンタモニカ ・ブルーバードにアシスタントと何度も旅して作品制作を行ないます。浮浪者、失業、男性売春などが題材となり、事前に用意され,ライティングされた状況で撮影された作品は"HOLLYWOOD"というタイトルがつけられました。
1993年から1999年までニューヨーク、ロンドン、ナポリ、カルカッタ、メキシコシティーなどの世界中の都市のストリートで撮影されたのが"STREET WORK"シリーズです。ある街角を事前に決め、動く通行人を隠したストロボの大光量で撮影した作品はまるで無名の俳優が演技している映画のワンシーンかのような雰囲気に仕上っています。
2000年から開始されたのが"HEADS"シリーズです。望遠レンズを利用して、真上からのライティングで撮影された人は、黒バックに浮かび上がる舞台俳優かのようです。撮影されることを全く意識していない被写体の一瞬の表情に、その時に考えていたことが映し出されています。まさに人間の持つ無と現実の瞬間を捕らえているかのようです。

1993年に、ニューヨーク近代美術館で、1996年にはロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーで個展を開催。2007年6月には、ICA(The Institute of Contemporary Art, Boston)で約30年のキャリアを振り返る本格的 回顧展が開始されています。 その他世界中の美術館、主要ギャラリーで展覧会が開催されるとともに、コレクションされています。コレクター人気も高くオークション落札価格も上昇中です。
1991年、ニューヨーク近代美術館で開催された 写真展「Pleasure and Terrors of Domestic Comfort」でディコルシアを紹介した同館のピーター・ガラッシは彼のことを「退屈で平凡な風景を何か意味があるような別物にする。」 と高く評価しています。同美術館では彼の写真展開催とともに写真集出版も行っています。