2024-8-13
Steidl, 2024
Joel Sternfeld(ジョール・スタンフェルド)
ジョエル・スターンフェルド(1944-)は、カラーによる大判ドキュメント作品で知られる米国人写真家。
70年代にカラーでのアート写真の可能性を追求した、ニュー・カラー・フォトグラフの代表作家のうちの一人です。
1978年からグッゲンハイム奨学金を受けて約8年間にわたり
全米の風景を大判カメラで撮影。その成果が、人間により変貌するアメリカン・シーンを探求した
代表作「アメリカン・プロスペクト(American Prospects)」(1987年)です。また、彼は現代アート分野で活躍するアンドレアス・グルスキー
などに影響を与えたことでも知られています。
「Nags Head(ナグスヘッド)」は、ほとんど全貌が知られていないスターンフェルドの初期カラー作品です。
一部は、「First Pictures」(Steidl,2011)に収録されていました。
彼は本書を通して2つの初期パーソナルな作品を絡めながら、いままで過去50年の仕事における色彩理論のルーツと進化を明らかにしています。
1975年の夏、麻痺のリスクを伴う手術に直面したスターンフェルドは、その前にゆっくりした田舎生活を過ごすために米国東海岸ノースカロライナ州アウターバンクスのナグスヘッドに向かいます。6月から8月にかけて、彼は時間の中に流浪するかのようなビーチ・コミュニティで、夢のような慰めの感覚を写真で切り取ります。
写真には、あらゆる年齢層の海水浴客が、レジャーやレクリエーションに勤しむシーンが撮影されています。
このころの彼はすでに写真表現の基本としての色彩にこだわっており、美術家ヨゼフ・アルバースが色を学び、教える体験的な方法を記した著作「Interaction of Color、1963年刊」に夢中になっていました。"色彩の知覚的特性に関するアルバースのような訓練と何らかの形で一致するような色彩現象を風景の中で目にしたときは、いつでも写真を撮りました"と彼は当時を語っています。
しかし、この夏のナグスヘッド滞在はスターンフェルドの弟の死によって悲劇的に中断されます。
彼はニューヨークに戻り、二度とナグスヘッドに戻ることはありませんでした。やがて彼は仕事を再開し、ある日クイーンズのロッカウェイ・ビーチに向かい写真を撮ります。
彼が、”醜い光景が一度に美しく見えた”と語るように、砂浜、アパート、空の色彩が一体となり、
ついに色彩(カラー)の力で被写体自体を超越した表現ができたと実感できたのです。絶望の中で撮られたこの写真は、ナグスヘッド・シリーズでの
作品が知覚的な基礎となっています。そして、数年後にスターンフェルドの代表作「American Prospects」の色彩構造へとつながっていくのです。
ハードカバー : 93ページ、サイズ 25.4 x 2.54 x 31.12 cm、約71点の図版を収録。