2023-10-14

  

ロバート・フランク

FRANK, Robert (1924-2019)

ロバート・フランクは1924年スイスのチューリヒ生まれです。40年代前半から多くのスイス人写真家のスタジオで働き、1946年に手作りの初写真集"40 Fotos"を制作。1947年、23歳のときにアメリカに移民。アレクセイ・ブロドビッチに雇われ“ハーパース・バザー”誌で主に商品の写真を撮影しています。 1951年には“ライフ”誌の若手写真家コンテストで入賞し、1953年以降はファッション写真をやめフリーのフォトジャーナリストとして“ライフ”、“フォーチュン”、“ニューヨークタイムズ”“U.S. カメラ”などに写真を提供しています。
1949年から1953年にかけて、フランクはニューヨークからたびたび欧州を訪れフランス、スペイン、スイス、イギリスなどで撮影しています。 1951年~1953年には英国、ウェールスを旅してイギリス社会や炭坑をテーマにしたフォトエッセイを発表しています。

1955年から1956年にかけて外国人としては初めてグッゲンハイム財団の奨学金を得て、アメリカ各地を約30州を旅行し、フィルム767本を使用し市民の現実の生活を撮影しています。 撮影イメージは約27,000点、ワークプリントは約1000枚プリントされ、フランクはその編集、セレクション、配列に約1年間かけています。 その中から83作品が写真集にまとめられ、1958年の5月15日にフランスのRobert Delpire社から"Les Americains"として刊行されます。 これは社会学的探求の色合いが強いもので、フランクの写真は対面ページのテキストのさし絵的な扱いでした。1959年の米国Grove press版は、収録写真83点は同じですがフランス版とは別物。テキスト部分は全て取り除かれジャック・ケルアックの序文のみとなり、写真の左側対面ページは撮影場所を表示したキャプションのみが表示されます。 これは、ウォーカー・エバンスの"American Photographs"のレイアウトを意識したといわれています。 ("The Americans"は2008年に改訂版が出版されています。)

当時のアメリカは黄金の50年代と呼ばれ、中流階級が形成されアメリカン・ドリームの夢に国民は酔っていました。スイスからの移民者の目で、ありのままの現実のアメリカを撮影した一連のイメージはアメリカ人が抱いていた国のイメージとかけ離れていました。発表時は“反アメリカ的”と酷評されました。当時は雑誌“ライフ”や“ルック” など社会や人間の現実の描写を重要視するフォト・ジャーナリスト的写真が主流でした。その中で個人の主観的な視点で表現したフランクの写真は画期的で、その後の写真家に大きな影響を与えることになります。60年代に活躍するリー・フリードランダーやゲイリー・ウィノグランドらの初期の写真は フランクの影響が見られます。
現在では“アメリカ人”はウィリアム・クラインの写真集“ニューヨーク”(1956年) とともに現代アメリカ写真のルーツとして高く評価されています。

“アメリカ人”発表後は主に16ミリ映画の製作に専念しています。1972年には写真集第2作目“私の手の詩”を日米で出版。この本は1989年に新版("Lines of My Hand")として再版されています。その後1987年に写真集“ニューヨークからノバスコシア”が刊行されています。

映画製作の合間にポラロイドカメラでモノクロ写真の撮影を行なっており、1980年代後半からファッション写真の撮影をポラロイドで行ない、 Alberto Asperiのカタログ、コムデ・ギャルソンの雑誌“SIX”、 ロメオ・ジリなどを手掛けています。 1990年にワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートに全てのネガを寄贈、1994年には同館で回顧展が開催されています。
2009年には写真集"The Americans"の刊行50周年を記念して、同書の撮影、制作過程を本格的に探求した写真展 "Looking In: Robert Frank’s "The Americans"がワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートで企画され全米を巡回しました。 

2019年9月9日、カナダのノヴァスコシアの病院で亡くなりました。94歳でした。